視覚障がい者に聞く感染防止策のポイントとポストコロナのイベント

先日、白杖を持っている方が店頭にあるアルコール消毒を素通りしていた光景を見て、視覚障害のある方はコロナ禍をどう過ごしているのかに興味を持ちました。コロナ対応が一般的になってきた今、改めて障害のある方にとっての感染防止策を確認したいと思い、NPO法人ユニバーサルイベント協会 理事の池松さんに話を伺いました。


池松 塑太郎(いけまつ さくたろう)
1989年生まれ、富山県出身
病気により生まれつき両目の視力は0。盲学校・視覚障碍者向けの大学等を経て、現在は都内の企業で事務職などの業務を担当。プライベートではNPO法人ユニバーサルイベント協会 理事を務める。一人暮らし。趣味は音楽鑑賞、旅行など

 

見えない中での感染防止策

― 今や消毒とかソーシャルディスタンスなどが一般的になってきましたが、視覚障害の方はどのように対応されていますか。

当然ですが、みなさんと同じように対応したい気持ちはあります。手指のアルコール消毒について、店舗の入り口に消毒液があるだろうということは分かっていますが、どこに置いてあるのか細かい場所まではわからないケースが多いです。壁際にあることが一般的だとは思いますが、必ずそうとも限らない。ある程度場所が決まっていればわかりやすいのですが、なかなかその段階には至っていないかと思いますので、店頭に店員さんがいる場合は声掛けをしてもらえるとありがたいです。
点字案内版やエレベータのボタンなどを触ることについて、抵抗があると言えばありますが、触らないと分からないので自分はあきらめています。結果として自分は消毒液を持ち歩くようにしています。これは自分が安心したいということもあるけれど、「きちんと対応していますよ」ということアピールして、周りの不安を減らす意味もあるとは思います。
周囲との関係で言えば、ソーシャルディスタンスという言葉が一気に広まったので、声を掛けられることが減ると思ったけれど、実際には声をかけてもらうことが増えたように感じています。感染防止策といってもまだまだ共通化されたものになっていないので、声をかけてもらえるのはありがたいです。

― それは興味深いですね。行動のハードルが増えたら周りのサポートが増えるのは自然と言えばその通りかもしれません。

ハードルというほどのことではありませんが、外出時に考えることは少し増えたかもしれません。例えば、電車では5月位まではみなさん間を取って座っていましたし、ひょっとしたら今でも間を取って座りたい人がいるのかもしれない。これまでだったらスペースが空いていると気兼ねなく座っていたけれど、座っていいのか悩みます。今も利用者が増えてきている中で、自分が入った空間がみんなの中でOKな空間なのかどうかの判断がちょっと難しい。

他にも、ベンチやイスが1つ空けて座るようになっているようですが、座席に紙が置いてあるだけなので、自分が座ろうとしている所がOKな席なのかどうかがちょっと迷います。どうしてもやむを得ない部分はありますが、できる限りきちんと対応したいという気持ちがあります。

  

こういったことも含めて、移動すること自体が好きなんですが、オンラインセミナーが増えて移動しなくても情報を得られるようになったことは楽ですね。自分の周囲の視覚障害のある人からも、セミナーやイベントのオンライン対応については好意的な意見を多く聞きます。

 

「Yes, And」で広がるオンラインの世界

― オンラインツールで使いやすいモノとかはありますか。

Google meetが使いやすいですね。画面が全く見えない場合、画面上に表示された文字を音声で読み上げるソフトウェアを使用していますが、一般的なブラウザ上で使えるGoogle meetは読み上げソフトとの相性がかなり良い印象です。
meetは機能も絞られているので操作しやすいですし、画面上の情報が少ないので、チャット欄の読み上げを選択しやすいということもあります。
これはどのツールにも言えるのですが、最近は資料の画面共有が当たり前になっていることで、テキストとして情報が得られなくなってしまう点は少し困っています。ファイルも共有してもらえると、自分のパソコン上で読み上げていくことができるので助かります。
ちなみに、読み上げはテキスト箇所をひとつずつ選択して行っているので、テキストの位置が分かっていると操作もしやすいです。慣れてくるとオンラインイベントとかで視聴者のコメントがどんどん投稿されるのを読み上げることもできるので、イベントの雰囲気も感じることができて楽しいですよ。

― オンラインイベントは1人で参加するイメージが強いので、私たちにとっても楽しめる楽しみ方かもしれないですね。オンラインイベントの話しが出ましたが、今後のイベントのあり方としてオンラインをどうとらえていますか。

先ほども話をしましたが、移動しなくて済むのは確かに便利です。ただしリアルに開催しているイベントなのに障がい者はオンライン参加というように区切られるのは嫌ですね。あくまでも距離や時間などの都合で参加が難しい人へのオプションとしてハイブリッドで活用してほしいです。
自分はライブや舞台が好きでよく行っていました。ライブはやっぱり熱気やお客さんの歓声といった会場の雰囲気も重要ですし、そういう中に身を置くことが魅力です。
なにより、音が鳴った時の音圧を肌で感じるのが最高です。芝居を見に行けば、役者の足音や小道具を動かす音などで何となくシーンを想像できることもあります。こういった楽しみはやはりモニター越しだとなかなか感じられません。

― ちょっと楽しみ方のハードルが想像以上でした。

私は以前からそういう楽しみ方をしていましたが、きっと皆さんも同じだと思います。これまではイベントに参加して無意識に多くの情報を味わっていた。コロナがあってオンラインで代用するようになり、今まで求めていた情報は得られたはずなのに何か物足りない。今はそんな段階のような気がします。しばらくはオンラインやハイブリッドでの開催が主流になると思います。今のうちにオンラインでも満足できること、リアルじゃないと満足できないことを見極めておくのが大事だと思います。

 

 


この記事を書いた人

越川延明
千葉県出身。2001年セレスポ入社。サステナビリティを軸とした組織づくり、人材育成、PR、IR、CSRに取り組む。サステナブルな生き方を目指し、「正しさよりも楽しさ」をテーマに活動中。人見知りなのに人前で話す機会が多いのが悩み。

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