突撃取材、ちょっと聞いてもいいですか!?
第1回 建築家が考える『イベントのちから』 とは (後編)

前編に続き、設計、街づくり、イベント企画など多岐にわたって活躍されている、設計事務所オンデザインパートナーズの建築家・西田さんと宮野さん(以下、敬称略)にお話を伺いました。後編では街づくりの視点から、人と人が集まる価値について深堀していきます。

 

|ひとりひとりから生まれる変化が未来をつくる
― 街づくりや住宅設計は長期的な視点でされると思いますが、そのときに現在や将来のニーズを意識していますか?
西田:ぼくはもっと軽いです笑 10年後の未来図を描いても、今考えられることって10年後からしたら過去ですよね。もちろん仕事なので図面も模型も未来図も描きます。でも今ある自分の知識や引き出しから出たものを目指していくと既視感がでてしまう。なので、街づくりの文脈では自分の引き出しに戻ってビジョンを描くことはしていません。

― では街づくりでは、形を重要視しているわけではないと、、、?
西田:もちろん形も作っているけれど、重要なのはそこに発生しているコミュニティです。古参も新参者もみんなフラットに、自分がやりたいことに対して乗れるような環境になっているのかどうか。だからDIY力が上がってきたことによって、自分でやりたいことを仕掛けることができるようになって、街づくりの手法がひとつ増えました。他にも都市計画ではタクティカルアーバニズム(戦術的都市計画)という、小さな変化から大きな変化をつくっていく考え方があります。昔はどこに道路を置き、インフラを通すかといった大きなところから計画していた。それとは反対に小さな変化は、自分で公園に敷物をしいてピクニックをはじめるようなこと。それを繰り返しやっていたら公園の下地がコンクリートから芝になったり、そのうち屋台も出してよくなって、さらに公園をよくするために投資までしておしゃれなカフェができたりする。つまり最初に全部決めて作るのではなくて、ちょっと作って、ちょっと試して、効果があればまた作る。そうやって少しずつ作り上げていって、結果大きなものになっていく。そうやって街は更新されていくのだと思います。

|アイデアはインプットと人間観察から生まれる
― 西田さんは色々な方と様々なジャンルでイベントやものづくりをされていますが、多様な発想力や想像力はどうやって養われているのでしょうか?
西田:ぼくたちは設計が生業なので、他の業界の人よりも引き出しは多いと思います。海外でやられているものとか、施設の良いものを知っていて、何ができるかもわかっている。それをアレンジしながらやっています。あとは、人と話しながら、その人がアッと思ったことやどういう視点をもっているか、その人の興味関心をインプットしています。それでぼくの引き出しからその人に響きそうなところを話している。同じ目線の話をちょっと広げていくことで、雑談レベルの話からちょっとしたきっかけで提案を持ちかけることもあります。その人の興味関心に沿った話題や提案は、乗っかってきてくれることが多い。そういう人をサポートして進めていくと、結果その分野の担当になってくれます。それぞれ異なる分野の担当を巻き込んで組み合わせれば、ひとつのコミュニティは小さくても、複数のコミュニティが共存する、偶発性が生まれる空間をつくることができる。ぼくたちは街にそういうゆるさや同時共存できる寛容性を持たせることで街づくりをしています。

― 自分の好きなことで街づくりに参加できる。考えるだけでなんだかワクワクしますね。


「芹ヶ谷公園“芸術の杜“プロジェクト」の模型。思い思いのことをする人たちが集まる。細部まで作りこまれていておもしろい

 

|建築家の思うイベントのちから
― 最後に、西田さんからみて、イベントにはどんな価値やちからがあると思いますか?
西田:イベントに参加している人が、自分と同じコミュニティの人とグルーブ感を得ることだと思います。家でも野球は観れるけど、スタジアムで観ている方が断然楽しい。例えばHRを打って、知らない隣の人とハイタッチしてしまったり、それは「同じコミュニティだな」と感じるからでしょう。集まることで「一人じゃない」と精神的安心を得ることもできます。それは街づくりで同じストリートを共有しているのも一緒です。知らない人を見ながら「そうだよね」と自己再確認できる場所でもあるはずです。

 

|編集後記
西田さんと宮野さんへの取材を通して、「ゆるさ」「偶発性」「DIY意識」「楽しい」などのキーワードがでてきました。街づくりとイベントでは規模や手法は異なりますが、目的達成のための手段であることは同じです。これからのイベントでもつくる側の人や参加者を楽しませながら巻き込んでいく『余白』がポイントになるのではないでしょうか!?

 

■取材にご協力いただいた方の紹介

西田 司
1976年神奈川県生まれ。1999年横浜国立大学卒業。同年、スピードスタジオ設立。2002年東京都立大学大学院助手(〜2007年)。2004年オンデザインパートナーズ設立。首都大学東京研究員、横浜国立大学大学院Y-GSA助手、東北大学非常勤講師、The University of British Columbia (UBC)非常勤講師、東京大学非常勤講師を経て、現在、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授、大阪工業大学客員教授、立教大学講師、ソトノバパートナー。オンデザインパートナーズ代表。石巻2.0理事。主な作品に「ヨコハマアパートメント」(2009年)、「江ノ島ヨットハウス」(2013年)、「隠岐国学習センター」(2015年)、「コーポラティブガーデン」(2015年)がある。著作に「建築を、ひらく」(学芸出版、2014年)、「おうちのハナシ、しませんか?」(エクスナレッジ、2014年)、「事例で読む建築計画」(彰国社、2015年、共同執筆)他。日事連建築賞小規模建築部門優秀賞(2011年)、JIA新人賞(2012年)、グッドデザイン復興デザイン賞(ishinomaki2.0、2012年)、東京建築士会住宅建築賞(2013年)、神奈川建築コンクール優秀賞(2014年)他多数を受賞。

宮野 健士郎
1994年 北海道生まれ。2018年 札幌市立大学卒業。
2019年 東京工業大学大学院卒業。同年、オンデザインパートナーズ入社。

 

・オンデザイン HP http://www.ondesign.co.jp/
・ケンチクとカルチャーを言語化するメディア  BEYOND ARCHITECTURE  http://beyondarchitecture.jp/

 

この記事を書いた人

早川このみ
スポーツ全般観るのもやるのも好き。超雑食系サブカル女子。オリンピックを観戦して、気が付けばアスリートを保護者のような気持ちで見守っていることに驚愕。大学までやっていた馬術、馬文化について広めていきたい。

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