突撃取材、ちょっと聞いてもいいですか!?
第1回 建築家が考える『イベントのちから』 とは (前編)

2020年3月頃からコロナによってイベントは軒並み中止となり、リアルで集まることが難しい日々が続いています。かわりに集まり方はオンラインへと移行してきました。果たしてこの先コロナが落ち着いたところで、イベントは元の形に戻るのでしょうか。このコラムではイベント業界の外にいる人の視点から、人が集まることやイベントの本質をみつめ直すヒントをもらい、これからのイベントの輪郭をつかんでいきます。

第1回は横浜市内に拠点をおき、設計、街づくり、イベント企画など多岐にわたって活躍されている、設計事務所オンデザインパートナーズの建築家・西田さんと宮野さん(以下、敬称略)にお話を伺いました。前編ではコロナ禍の仕事から見えてきた、オンラインとリアルの価値について考えます!

 

|現在開催中、東京ビエンナーレでのお仕事

― いま都内で開催されている東京ビエンナーレ2020/2021に関与されていると聞きましたが、どんな形で関わっているのでしょうか?

西田:サイトディレクターとして、会場で利用したいと思った公共施設にアタックをして、借り上げて、アーティストさんに紹介をしました。その空間設計もしています。他には、災害対応向上プロジェクトを展開して、災害の記憶から日常につなげるためのワークショップを毎週のようにやっています。もともとビエンナーレは2020年開催予定だったので、2019年から準備をはじめて、それがコロナで延期になって2年越しの開催。当初の計画よりも分散して楽しめるように会場が増えました。おかげでぼくたちのやることも膨大に増えました 笑

 

|コロナになって、イベントを自らつくりこむ傾向が顕著に

― コロナ前後で何か仕事に変化はありましたか?

宮野:コロナになって具体的に集まることのコンセプトにフォーカスされるようになったと感じています。例えば路上でやっていたイベントは外でやるのが気持ちいい程度の感覚だったのが、外で集まることの良さや価値をあらためて見直すきっかけになりました。

西田:特に屋外だとDIY的なイベントが増えていて、屋台までつくっています。それも設計事務所のぼくたちに限らず、街の人が手を動かせるようになっている。事務所の前の通りでも、コロナ禍に地域の人が飲食店を屋外客席にしてみたり、イベントをうっていました。それなりの区間を封鎖して会場にしたところ、ほとんどDIYで埋まってしまった。そこにはぼくの事務所で造っている物もあるけど、他の人たちが造っている物もありました。そういったイベントを自分たちの手でつくっていくことがコミュニティを強化するきっかけになっていたと思います。イベントをつくっていく感覚が自分たちでDIYするくらいの感覚まで含むようになってきたのがコロナになってからの傾向です。

実際につくった屋台を模型化したもの。形がさまざまで、とても個性的。模型を並べただけで楽しそうな雰囲気に

 

|リアルで際立つのは「楽しさ」と「ゆるさ」

西田:オンデザインでもリモートワークを推奨していて、事務所に来ることや時間は個人の自由にしています。でも明らかに夕方は人が多い。朝は数人しかいないのに、夕方は15人か20人くらいいたりします。みんな事務所で話をしに来ているんです。なぜか考えてみると、みんな事務所に話しに来ているんです。オンラインではできない、ゆるい雰囲気でうまれるゆるいネットワークというか弱いつながり、その中で出てくる偶発的なことがリアルに集まることの価値だと思います。

― そのつながりを意図的に作ろうとしたら、どんな要素が必要でしょうか?

宮野:偶発性を生み出すためには、みんなの興味を引いて吸い寄せるためのマグネットスペースが必要だと思います。それは、パッと見て楽しそうに感じるもの。例えば、いま高架下の活用方法を考えるワークショップを公民館ではなくて、高架下に屋台を引っ張っていってやっています。ただ立ち話をするようにアイデアを募集しているだけで、すごく色々な人が集まってきます。屋台を起点に交流を通わせる楽しさがそういう場所を創り出していると思います。アンケート用紙でアイデアを募集するだけでは生まれない、生の声をきくコミュニケーションができました。

西田:最初はコロナで仕方なく屋外に集まったのだけど、実際に外を歩いてやってみたらその場所を日常的に使う老若男女、多様な人たちの意見を聞くことができました。そして人が集まってくる楽しそうな雰囲気は、ハードよりもつくっている人が企画している段階から楽しそうかどうかが大きく影響していると感じました。

 

|DeNAベイスターズとの取組でみえてきた、オンラインとリアルのメリット

西田:コロナ禍にベイスターズとクリエイティブスポーツラボ(以下CSL)でオンラインイベントをやりました。これまで対面型だったものをオンラインに切り替えてみたら、これまでは面白いネタがあっても距離がネックで参加できていなかった人たちが参加できるようになった。結果、CSLの掲げるコンセプト「間口を広げていく」につながったんです。
イベントのテーマは「ベイスターズ×人財育成」とか、「ベイスターズ×サーキュラーエコノミー」といった野球と全く関係ない内容を取り上げています。他にも観光をテーマに、元横浜ウォーカーの編集者とスタジアムに来た後どこに行くかを話しました。そうするとイベントの参加者が「コロナが落ち着いたらスタジアムに行こう」と思うわけです。野球ファン以外でスタジアムに関心がなかった人たちに、野球と異なったテーマを間口にイベントを展開したことで、結果ベイスターズの多面性や面白さを知ってもらうことにつながりました。コロナ前からベイスターズは野球ファン以外も楽しめるボールパークのあり方を考えてきたけれど、コロナ禍でオンラインを活用したことが功を奏して、いまはダブルスタンダードで動いています。
リアルのメリットという点では、この前CSLのSNS広報のイベントで、いろいろな企業のSNS広報担当者が集まりました。SNSの使い方を教えあうのが目的でしたが、そのうちみんな困っていることや悩みを話し合うとても濃い時間になっていて。レクチャーやワークショップはオンラインでできるけれど、悩みを共有したり雑談をするのは圧倒的にリアル空間が向いています。

横浜DeNAベイスターズとオンデザインが展開する「THE BAYS(ザ・ベイス)」
スポーツとクリエイティブをテーマに、みんながちょっとした時に行きたいと思える空間づくりをおこなっている

 

なんとなく空間を共有するためにリアルを欲している感覚にとても共感しました。
後編では、人が集まることにどんな価値があるのか深堀していきます。

 

■取材にご協力いただいた方の紹介

西田 司
1976年神奈川県生まれ。1999年横浜国立大学卒業。同年、スピードスタジオ設立。2002年東京都立大学大学院助手(〜2007年)。2004年オンデザインパートナーズ設立。首都大学東京研究員、横浜国立大学大学院Y-GSA助手、東北大学非常勤講師、The University of British Columbia (UBC)非常勤講師、東京大学非常勤講師を経て、現在、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授、大阪工業大学客員教授、立教大学講師、ソトノバパートナー。オンデザインパートナーズ代表。石巻2.0理事。主な作品に「ヨコハマアパートメント」(2009年)、「江ノ島ヨットハウス」(2013年)、「隠岐国学習センター」(2015年)、「コーポラティブガーデン」(2015年)がある。著作に「建築を、ひらく」(学芸出版、2014年)、「おうちのハナシ、しませんか?」(エクスナレッジ、2014年)、「事例で読む建築計画」(彰国社、2015年、共同執筆)他。日事連建築賞小規模建築部門優秀賞(2011年)、JIA新人賞(2012年)、グッドデザイン復興デザイン賞(ishinomaki2.0、2012年)、東京建築士会住宅建築賞(2013年)、神奈川建築コンクール優秀賞(2014年)他多数を受賞。

宮野 健士郎
1994年 北海道生まれ。2018年 札幌市立大学卒業。
2019年 東京工業大学大学院卒業。同年、オンデザインパートナーズ入社。

 

・オンデザイン HP http://www.ondesign.co.jp/
・ケンチクとカルチャーを言語化するメディア  BEYOND ARCHITECTURE  http://beyondarchitecture.jp/

 

この記事を書いた人

早川このみ
スポーツ全般観るのもやるのも好き。超雑食系サブカル女子。オリンピックを観戦して、気が付けばアスリートを保護者のような気持ちで見守っていることに驚愕。大学までやっていた馬術、馬文化について広めていきたい。

同じカテゴリーの記事を読む

カテゴリーごとに記事を見つける