「災間を生きる」私たちに必要なこと 〜フェーズフリーレポートin東池袋〜 (後編)
私の勤務先から徒歩15分程度という、近くにあるのになかなか行くチャンスがなかった<防災士が気になる公園!>「イケ・サンパーク」に行ってきました。場所は、東池袋。サンシャインのバスターミナルからすぐのところです。併せて乗車・見学したいと思っていた、電気バス「IKEBUS」(イケバス)にも乗ってきたのでレポートします。
(前編「イケ・サンパーク」レポートはこちら)
― 真っ赤なシンボルは、かわいいだけじゃない ―
私のもうひとつの目的は「IKEBUS」(イケバス)乗車です!
イケバスは最高時速19km、乗車定員22名の小型電気バスで、池袋駅の東西2ルートを20分間隔で周回し、4つの公園や区役所などの主要ポイントを繋いでいます。なんと片側5輪、計10輪の電気バスで(10輪駆動8輪操舵(そうだ)というらしい)、車両デザインは電車好きなら皆様ご存じ!JR九州「ななつ星」のデザインでも有名な水戸岡鋭治さんによるものです。真っ赤で四角いインパクトのある可愛らしいバスです。
IKEBUSイケバス(前面/乗降の様子):イケ・サンパークバス停にて
IKEBUSイケバス(側面/背面)側面には5輪がズラリと並んでいます!後部には車椅子用ゲートも:イケ・サンパークバス停にて
運行開始は2019年11月。最高時速19kmということで、開業当初は周囲の車両からクラクションを鳴らされてしまうことも多かったとか。2021年10月現在、運転手さんに伺ったところ、最近では鳴らされることはほとんどなくなったそうです。地域に認められ、受け入れられたと言えるのではないでしょうか。
実はこのイケバスは、“緊急時の電源”としての役割もあるんです。常に池袋駅周辺を周回していて、有事の際は、1車両あたり約2,500台の携帯電話の充電が可能になるというんです!このような、“有事対応を日常の中に組み込む”このような取り組みを、「フェーズフリー」と言います。
平常時と非常時(災害時)という社会のフェーズ(時期・状態)の垣根を取り払い、日常使っているモノやサービスが災害時に適切に使えるようにする「価値」を表した言葉で、イケバスもイケ・サンパークも「フェーズフリー」を実現したものなんです。
― 私たちは、「災間」を生きている ―
さて、レポートが長くなってしまいました。
今回はフェーズフリーに着目して、二つのレポートをお届けしましたが、なぜ突然フェーズフリーなのか?
それは、見出しにある「災間」(さいかん)というワードをお伝えしたかったからです。本稿を執筆しているのは2021年10月下旬です。2011年3月11日の東日本大震災から10年が過ぎたところです。今年の3月には、追悼の式典や番組がテレビでも多く放映され、記憶が呼び戻されました。みなさんはその時、或いはその後、何らかの防災対策を見直したり、行動を起こしたでしょうか?
つい先日、10月7日夜には、千葉県北西部を震源地とするマグニチュード6.1の地震が発生し、東京・埼玉で3.11以来となる最大震度5強を観測しました。幸いにも、甚大な被害には至らなかったものの、3.11の記憶を呼び起こす出来事でした。しかし、ほとんどの人は日常を取り戻し、1週間、2週間と時間が経つにつれ、地震への関心や記憶が日に日に薄くなっているのではないでしょうか。
そう、人は忘れていくもの。
前回のコラムでも触れた「正常性バイアス」も関係しています。私たちは、基本的な心の防衛反応として「いつも通り」「まだ大丈夫」「普段と一緒」と自分に言い聞かせます。つらく苦しかったことは、ゆっくりと、氷が解けるように、少しずつ忘れていくように(薄れていくように)できているそうです。そんな自分の性質を理解したうえで、できることを一緒に探して行動していきませんか?
ご存知の通り日本の国土は、4つのプレートがぶつかり合い、常に地震のリスクと隣り合わせです。また、豊かな温泉は火山活動が活発な証拠。広くない国土は急峻な山々から水が激しく流れ落ち、異常気象による豪雨も相まって、土砂災害のリスクは年々増加傾向です。
私たちは「東日本大震災“後”」を生きているのではなくて、「災害と災害の間の時間」を生きている、そう捉えると、また違った景色が見えてくるのではないでしょうか?
では次の災害は“いつ発生するのか”。残念ながら現在の最新科学技術でも完全な予測や断定をすることはできません。南海トラフ地震・首都直下地震・富士山噴火など、激甚災害の発生確率は年々上がってきています。そんな現状だからこそ、私たちは準備を整えておく必要があります。でも難しく考えなくていいんです!一定の水準を満たしていればそこから先の準備のレベルは人それぞれでいいと思います。特別な防災専用品を用意する必要はありません。大切なのは「発想と想像力」、そして「ひらめきと工夫」だと思います。
「もしも」のためだけの高額な防災専用アイテムを揃えるよりも、「いつも」使っている“家庭や職場にある物”や“趣味の道具”等を(例えば、キャンプ道具・釣り道具…クッキング用品やおしゃれアイテムも!)、非常時に活かせる発想と想像力が大事なんです。言い換えると、“こう工夫すれば使えるかも!?”という「ひらめき」や「気づき」が大事。また、「いつも」使うものを買い替える時があったら、その時は、ものすごいチャンスです!非常時にも有効だと思える機能や拡張性のある物を選択してみてください!これがあなたの「フェーズフリー自分版」第一歩です。
“私たちは、「災間」を生きている”
“日常使っているモノやサービスが災害時に適切に使えるようにする「価値」”を見出すことが、身近なところからすぐに実践できる“生き延びる方法”ではないでしょうか。自分のために、大切な人のために、ぜひ、みなさんも小さなことでいいので、自分にとってのフェーズフリーを見つけてみたり、買い物をする時に思い出していただけたらうれしいです。
集まり方改革編集部は、withコロナだけでなく、afterコロナも、そして次に来る災害に対しても、さらには間もなく訪れる超高齢化社会・人口減少社会などにおける「集い」について、規模やコミュニティの大小に拘らない調査・比較・考察などを行い、提言・発信を行います。これからもお楽しみに!
イケ・サンパーク オフィシャルHP https://ikesunpark.jp/
WILLER株式会社 IKEBUS専用ページ https://travel.willer.co.jp/ikebus/
(一社)フェーズフリー協会 https://phasefree.or.jp/
└フェーズフリーコンセプトサイト https://phasefree.org/
参考文献
・潮新書『災害と生きる日本人』著者:中西進、磯田道史
この記事を書いた人

現役消防団員・防災士。ムサビOBのクリエイティブ職。密かにはまっているのは、河原の石を絶妙なバランスで積み重ねるロックバランシング→難しい!
もうひとつは、川底の粘土で粘土細工。コネコネと時を忘れてつくり続けています。いずれは土器をつくってみたい。そんな日々を送っています。
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